クラフトビールを味わう、
滋賀を味わう。
山崎純敬(写真家)
滋賀県出身の山崎純敬さんは写真家として働きながら、自ら「滋賀グラファー」と名乗り、滋賀の魅力を伝える取り組みも精力的に行っています。撮影で県内各地を巡る中で知ったという滋賀の「クラフトビール」にまつわるお話を伺いました。
〈前編〉
若い頃は遊びにいくとなると大阪や京都で、当時の私にとって、滋賀は「生まれ故郷だけど何もないところ」でした。大学卒業後は、大阪のスタジオなどで働いている時期もありましたが、あるとき滋賀の情報誌に、専属カメラマンとして6年ほど関わることになったんです。そこから滋賀県内を撮影でよく回ることようになりました。それこそ、1週間で琵琶湖を何周もするくらいに(笑)
あちこち移動しながら、いろんな景色や人と出会って、気づいたんです。あれ?滋賀って何もなくないぞ、むしろ素敵な魅力がたくさんあるぞって。その後、写真家として独立したタイミングで、「滋賀グラファー」と名乗りはじめて、滋賀の魅力的なものやことを見つけては、写真を撮り続けています。
「滋賀グラファー」として、東近江の日野町にある「HINO BREWING」との出会いは大きかったです。日野町には、850年以上続く「日野祭」という伝統的なお祭りがあるのですが、その記録撮影を頼まれたんです。依頼者は、酒屋の6代目を継ぐ日本人、ビール醸造の技術をもつポーランド人、広告代理店の経営者であるイギリス人というなんともユニークな3人組!彼らは祭り好きで意気投合して、「ビールで地域を盛り上げて、日野の祭りを守りたい!」と「HINO BREWING」というクラフトビール会社を立ち上げたんです。
彼らが作る「ヤレヤレエール」「ドントヤレIPA」「バカラガー」などのクラフトビールのネーミングは、祭りのときの掛け声やお囃子の名前からつけられたもの。伝統的なビール製法と最新のモルトやホップによって作られていて、祭りでの乾杯にピッタリの味わいです!さらには、滋賀を離れて暮らす人にも、ビールを飲んで故郷のことを思い出してほしい。彼らのクラフトビールには、そんな願いが込められているんです。
日野祭が催されるのは、毎年5月の2日(宵祭)・3日(本祭)。大きな曳山を引いて、町内を練り歩きます。面白いのが、曳山が通る道沿いにある家の塀には、「桟敷窓」という特別な窓が作られていて、家の中から祭りの様子を見ることができるんですよ。それぐらい町の人にとって、この祭りは大切な存在っていうことですよね。元々、この町には「日野商人」と呼ばれる人たちによって栄えた町で、華やかな曳山は、彼らの行商によって得た稼ぎによるもの。つまり日野祭は、この町にとって繁栄の象徴でもあったんですね。
町の人々から愛されて、何百年もの間、受け継がれてきた日野祭。そして、この祭りを守るために生まれた「HINO BREWING」も、今では地域で開かれているマルシェなどのイベントで大人気です。日野町の人同士が生ビールで乾杯している様子を見ると、このクラフトビールが地元に愛される味になってきたんだなということを感じますね。
〈後編〉
大津市内にも、「近江麦酒」という面白い取り組みをしているクラフトビールのお店があります。このお店は、あえて小さいサイズの樽を使ってビール造りをすることで、「おもしろ美味しいクラフトビール」を追求しています。店主は兵庫県出身で、元々は色々な発酵食品を趣味で作っていたのですが、大阪でプログラマーとして働いていた頃に仲のいい取引先の人が滋賀に引っ越しされることを知って、なんと自分自身も滋賀に移住することを決意!そして、ずっと作りたかったクラフトビールのお店を始めたというなんともチャレンジャーな方です。
商品にもチャレンジングな彼らしさがあらわれていて、とても種類が豊富です。例えば、滋賀県産ジャンボレモンを香りづけに使った「ペールエール」は、定番商品のひとつ。他にも「近江富士いちごエール」や「ゆずエール」など滋賀県産のフルーツを使った商品があり、普段ビールをあまり飲まない方でも飲みやすいフルーティな味わいで人気があります。また、滋賀県ご当地グルメの「鮒ずし」や琵琶湖固有種の「セタシジミ」を使った変わり種のビールもユニークです。毎月、限定ビールが登場するので、お店に行くたびに新しい味に出会えるのも楽しいところですね。 それに実はこのお店では、ビール造りに水道水を使っているんです。滋賀県の水道水の源は、もちろん琵琶湖。色々な水を試した結果、水道水が一番クラフトビールに向いていたそうです。ぜひ琵琶湖を眺めながら、「滋賀」がいっぱいつまったクラフトビールで乾杯してほしいですね。
おいしいクラフトビールを味わったあとは、ぜひ近江麦酒の近くにある「満月寺浮御堂(まんげつじうきみどう)」に行ってみてください。近江八景の「堅田の落雁」として知られていて、琵琶湖上に浮かぶ仏堂のシルエットがとても美しいです。平安時代に恵心僧都という僧侶が湖上安全などを祈願して建立したといわれています。琵琶湖の前に立つと、ある知人の言葉をいつも思い出します。その知人は琵琶湖の目の前に家を構えているのですが、「琵琶湖の色は、毎日違う」と言っていたのが印象的でした。人生に同じ日は一日だってないということ。琵琶湖は私たちに多くのことを教えてくれる存在だと思いますね。
私はこれからも滋賀グラファーとして、滋賀にいるからこそ見つけられるこの土地の魅力を発信していきたいです。そのために今、地域づくりの任意団体「シガーシガ」を立ち上げて、編集長として滋賀県の湖西エリアで理想の暮らしを叶えた人へのインタビューを行っています。その方々が湖西エリアに惹かれた理由などを編集して、それを発信するWEBメディアを2021年3月に立ち上げる予定です。今までにない滋賀のローカルな情報が満載なので、どうぞ楽しみにしていてください。
「滋賀」らしさにあふれたクラフトビールから、「滋賀」にとって重要な存在である琵琶湖まで、幅広くお話をしてくださった滋賀人、山崎さん。彼だからこそ見つけられる味わい深い魅力が、滋賀にはまだまだ隠されていそうです。